今回は物理化学、化学熱力学の中からトルートンの規則
トルートンの規則を簡単に言うと…
結論から言うと、トルートンの規則とは、ほとんどの液体においてほぼ同じ標準蒸発エントロピー(\(85 \mathrm{JK}^{-1} \mathrm{mol}^{-1}\))を持つという経験則です。
経験則とは実験により求められ、理論的に厳密に証明されたものではないということです。
トルートンの規則をもっと丁寧に…
そもそも蒸発エントロピーの変化とは、転移エントロピーのうちの蒸発に由来するエントロピー変化です。
転移のエントロピー変化は次のように表せます。
$$\Delta_{\mathrm{trs}} S=\frac{\Delta_{\mathrm{trs}} H}{T_{\mathrm{trs}}}$$
この転移時のエンタルピーを特に、蒸発のエンタルピー変化へと書き換えた式が次のようになります。
$$\Delta_{\mathrm{vap}} S=\frac{\Delta_{\mathrm{vap}} H}{T_{\mathrm{vap}}}$$
トルートンの規則の根拠となるのは、どんな液体でも蒸発して気体になるときにはほぼ同じの体積変化があるということです。これは、
「同温同圧で、同数の分子の場合、どんな気体の体積も同じである」というアボガドロの法則を考えるとイメージがわくかもしれません。
トルートンの規則の例外
では、トルートンの規則の例外となるのは、どのような場合か。
それは液体が普通よりも秩序化されているときや、気体の慣性モーメンが大きい場合が挙げられます。
トルートンの規則の例外① 液体が秩序化されているとき(ex:水)
例えば水分子は、水素結合によって部分的に秩序化されています。
秩序化されているということは、それだけバラバラになったときのエントロピー変化が大きいということですから、
標準蒸発エントロピーは、トルートンの規則の値よりも大きな値をとることになります。
トルートンの規則の例外② 気体の慣性モーメントが大きい時
慣性モーメントとは、
$$I=\sum_{i} m_{i} x_{i}^{2}$$
で表され、分子の質量中心を通る回転軸から原子までの距離の2乗にその原子の質量を掛けたものの総和です。
慣性モーメントが大きいと、取りうる回転状態の数が多くなり、エントロピーも大きくなります。
気体の慣性モーメントが大きくなればなるほど、トルートンの規則から外れて標準蒸発エントロピーは大きくなります。
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無機化学演習 大学院入試問題を中心に
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物理化学演習 1―大学院入試問題を中心に (化学演習シリーズ)
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