今回は遷移双極子モーメントについて説明していきます。
量子化学において遷移双極子モーメントは電子の選択則を理解する中ででてきます。
遷移双極子モーメントや電気双極子を理解しておきましょう。
遷移双極子モーメント
遷移双極子モーメントとは、ある始めの状態から終わりの状態に変化する時におこる電気双極子モーメントのことです。
ですので、遷移モーメントを理解するためには電気双極子モーメントを理解しておかなければなりません。
電気双極子と電気双極子モーメント
電気双極子とは、大きさの等しく符号の異なる電荷が対となって存在するものです。
このときのそれぞれの電荷の距離は無限小に近い距離です。
というとわかりづらいですが、非常に近いながらも完全には同じ場所には来ないという意味です。
そして電気双極子モーメントとはp=qdであらわされます。
このときのdはベクトル量になり、大きさは二つの電荷の距離で向きは負の電荷→正の電荷の向きになります。
この詳しい説明はおいておき、化学での遷移モーメントの話に戻ります。
化学での双極子
例えば水素原子をみてみましょう。水素原子核のなかには陽子があります。そして原子核のまわりに電子があります。
これら陽子と電子は同じ大きさの電荷で符号が逆ですので、双極子とみることができます。
遠くからみると電気は打ち消し合っていますが、近くで(よりミクロに)みてみると局所的な電気の偏りがあります。
つまり原子や分子というものは、電気的に中性であっても局所的には電気の偏りがあります。
この電気の偏りによって電磁波との相互作用を起こします。
遷移双極子モーメント
遷移(双極子)モーメントはさきほど言ったように状態変化のときに起こる電気双極子モーメントです。
このとき、状態1から状態2へと変化する時の遷移モーメントは次のように表されます。
$$
\boldsymbol{\mu}_{\mathrm{21}}=\int \psi_{\mathrm{2}}^{*} \hat{\boldsymbol{\mu}} \psi_{\mathrm{1}} \mathrm{d} \tau
$$
このときの\(\hat{\boldsymbol{\mu}}\)は、電気双極子モーメントを表しています。
そしてその電気双極子モーメントを表す演算子をはじめの状態と終わりの状態の波動関数で挟んだものが遷移双極子モーメントになります。
遷移双極子モーメントの積分計算
では最後にこの遷移双極子モーメントの積分の計算をしていきます。
$$
\boldsymbol{\mu}_{\mathrm{21}}=\int \psi_{\mathrm{2}}^{*} \hat{\boldsymbol{\mu}} \psi_{\mathrm{1}} \mathrm{d} \tau
$$
このとき、電気双極子モーメントでは各成分ごとに計算していきます。
例えばz成分をみるとき、\(\mu_{z}=-e z\)として式に代入します。
このzは双極子間の距離になります。これはその都度必要な値を代入していきます。