量子化学が難しい。授業で聞いてもついていけなかった。
復習しなおしたいんだけど、流れがわからないからどうやって勉強したらいいかわからない。
数式が多すぎて何しているかわからない。
なんていう方に向けての記事です。
量子化学、化学系の人なら苦手に思う人もおおいでしょう。とくに、「なんで化学を勉強しにきたのに、物理をしているんだ。」「なんで数学が必要なんだ…」と思いますよね。
私も最初はそうでした。学校の量子化学の授業は教科書の進み方とは待ったく違い、独自の教え方をするために、復習しようにもできず途方にくれていました。
しかし、いろんな教科書を見比べながら、「共通して何をしているか」を確認すると、量子化学の流れが簡単になりました。
今回はそれを皆さんにご紹介します。
量子化学を学ぶ前に
量子化学は、量子力学を化学に応用したものです。そしてこれは、とても大事なのですが、
量子力学を学ぶ上で「量子」という言葉の意味本当にわかっていますか?
日本大百科全書の「量子」の説明の冒頭には、このように記されています。
振動数νの光のエネルギーはhν(hはプランク定数)の整数倍で与えられる。この場合のように物理量の値が基礎量の整数倍で与えられる場合その基礎量を量子という。
日本大百科全書(©Shogakukan Inc.)より引用
つまり、ある物理量が、他の基礎的な量の整数倍であらわされるとき、それは量子化されているなんて言われるわけです。
しかし、そのことが大事なのではなく(大事ですが…)
別の言い方をしてみると、ある物理量は、基礎量の整数倍になることで“断続的”になっているということです。
それに対して今まではどうだったかというと、それまでの古典力学では、エネルギーや運動量がとびとびの値をもつことはなく、
連続的であったということです(例えば、ものを高くあげていったとき、位置エネルギーは常に大きくなり続けますよね?)
これはいわば、デジタルとアナログの違いともいえるでしょう。
アナログでは、全ての量が連続的になっているのに対して、デジタルは、データとして扱うために断続的な値として処理します。
つまり、量子化学でおさえておきたいことは、
いままでの古典力学がアナログ(連続的)とするならば、量子力学はデジタル(離散的)であるということです。
この感覚がないまま、量子力学に挑もうとするならば、最初でつまづきます(ガチで)
量子化学の流れ(本題)
簡単に量子化学の流れを説明します。これは、アトキンス物理化学やマッカリーサイモン物理化学、それから私の大学の講義の進め方などを参考に書いていますが、参考書や授業の形式によって大きく異なるのであくまで参考だと思ってください。
量子化学の簡単な流れ
量子化学では、
・並進運動(1,2,3次元の箱の粒子)
・振動運動(調和振動子)
・回転運動(円周上、球面上の粒子)
という順に基本的な運動モードでの粒子の波動関数(よくわからない人は流してください。)を勉強した後、
・水素(型)原子
・ヘリウム原子(摂動法、変分法)
・多原子分子
の電子の状態を数式で表現します。
そして、その後多原子分子では、複数の原子と電子の相互作用を
・原子価結合法(VB法)
・分子軌道法(MO法)
をつかって表現していきます。
量子化学を学ぶに当たって必要なこと
それでは最後に量子化学を学ぶに当たってとても大切なことを確認していきましょう。
細かい式にとらわれないのが重要
先ほど、これらはあくまで参考だと申しましたが、
しかし、この流れを頭にいれて勉強をすることで細かい脱線によって頭がぐちゃぐちゃになることを防ぎます。
たとえば、調和振動子を解くなかでエルミート多項式や換算質量という概念がでてきて、それがなにかという解説で1講義分を使い、話が調和振動子に戻った時には、もう何の話をしていたかわからなくなるといった授業を行う教員もいます。
ですから、大枠として、今は調和振動子の話をしているのだ、という頭でその波動関数を解くのに、エルミート多項式などを用いているのだという思考をもっておいてください。
細かい数式や、用語にとらわれないのが大事です。
そんなものは、あとでwikipediaを見たり、教科書を見たりすれば解決します。
まずは、“今、まさに何をしようとしているのか”これが大事になります。
何がゴールなのか確認する。
こちらも似たような話ですが、量子化学をやっていると何を目指しているのかよくわからなくなります。
例えば最初のほうの並進運動の話では、1次元の箱の波動関数とエネルギーを求めて、結局なにがしたかったのかよくわかりません。
だからこそゴールを見据えなければいけないのです。
正確には学問にゴールはないのかもしれませんが、今、量子化学を学ぶに当たっておそらく最短のゴールは水素型の原子の電子の様子を理解することではないでしょうか。
そのために、1、2次元で準備運動をし、水素原子により近い3次元での粒子を観察し、回転運動を勉強することで水素原子の様子がやっと理解できます。
調和振動子は、多原子分子での原子間の相互作用を見積もることができます。
このように全体の流れを先に把握しておくことが大事です。
本当に最終的なゴールはというと、多原子分子での全ての電子の様子を把握することでしょうが、正確にはこれはまだ誰もできていません。
そのため、水素原子→ヘリウム原子→多原子分子という風にステップアップし、摂動法や変分法などの近似法でうまくごまかしています。(近い値を求めています。)
だんだんと概念を拡張していっているのだという風に思っておくだけで、何をしているかわからなくなるといったことは少なくなるのではないでしょうか?
まとめ
いかがだったでしょうか?
量子化学の大雑把な流れについて解説していきました。
最初に流れを理解しておくことで量子化学への苦手意識というのはなくなっていきます。
しかし、注意してほしいのは、これはあくまでも量子化学という学問での一般的(?)な進み方ですので、
実際に勉強するとき(特に独学でするとき)には、この通りに行かないことも多いです。
実際に独学で勉強するためのロードマップは、いつか作成できたらいいなと思っているので、ぜひお楽しみにしていてください!
それでは以上です、失礼しました〜!