もう一度、おさらいすると、カルボニル化合物には反応に関わる部位が三つあり、カルボニル基の酸素原子、炭素原子、それからカルボニル炭素の隣の炭素についている水素原子です。
この水素原子はα水素と呼ばれ、pKaが低くなります。
なぜこうなるかというと、共役の塩基つまりこのα水素がプロトンとして抜けた後の分子が非局在化により安定化されているからです。
この分子をエノラートイオンまたは単にエノラートといいます。
エノラートイオンの共鳴混成体をみると、炭素および酸素のどちらにも負の電荷を帯び、そのために求核性をもち、どちらからでも求電子剤を受け付ける。
※このように二つの異なる部位で反応する化学種をアンビデントという。
ケト・エノール平衡
エノラートイオンの酸素がプロトン化されるとエノールになることがわかります。
エノールは、炭素二重結合に-OHがついたもので、対応するカルボニル化合物であり安定なケト型に異性化されることはよく知られています。
エノール化の役割
エノールは不安定ですが、その生成によって起こることがあります。
重水素交換
D2Oを溶媒に用いエノールの変換を利用すると、すべてのα水素が重水素に置きかわります。
ということは、これを利用して分子中のα水素の数を推測できます。
立体異性化
α水素が結合している炭素、つまりα炭素が立体中心になっているとき、立体異性体を生じるが、エノラートイオンを経由すると、アルファ炭素が平面上になるので、立体中心ではなくなります。
対してエノールでは、立体的な配置の理由からトランス体が有利になります。
つまりまとめると、一度エノラートイオンになったからにはもとの分子の立体に関わらず、エノールになる場合にはトランス体になり、ケト型になるにしても、一度立体中心がなくなるためにS体、R体どちらの立体異性体も生成されることになります。
ケト体の立体異性体(光学活性)は保持するのが難しいと覚えておきましょう。