化学系の大学院試験直前の対策として、大学院の試験に出題されうるキーワードの解説をしています。
今回は物理化学、化学熱力学の中から熱力学の過剰量というテーマを扱います。
熱力学の過剰量(過剰熱力学量)
今回は過剰熱力学量について説明します。
定義から言うと、液体を混合したときに実際に測定された熱力学量から理想的な状態での熱力学量を引いたものになります。
過剰熱力学量に関しては、右上にEやexをつけて表現することが多いです。
例えば、エントロピーに関しては次のように表されます。
ここで、で表されることが知られているので、実際に測定した値からこの理論値の差をとることで、エントロピーの過剰熱力学量を求めることができます。
過剰熱力学量の意義
それでは、なぜ過剰熱力学量が用いられるのでしょうか。
ここで、混合体積と混合エンタルピーを考えると、どちらも混合しただけでは普通変化はありません。
ですから、どちらの理想値も0になります。
そうすると過剰熱力学量の定義にあてはめると、差をとるものがなく、測定量そのものが過剰量になるのです。
ということは、過剰熱力学量は理想の混合物(例えば溶液)からのズレを示すものになります。
正則溶液
正則溶液とは、過剰エントロピーが0で、過剰エンタルピーが0ではない溶液を正則溶液といいます。
これは、理想的に分子が散らばっていて(過剰エントロピーが0)、相互作用にエネルギーは異なっている(過剰エンタルピーが0ではない)状況であります。
この相互作用のエネルギーを表す指標としてを用います。
この記号はグザイと読むギリシア文字です。
そうすることで、とあらわすことができます。
このξは、相互作用の大きさを示すパラメータです、
のとき、混合は発熱的に起こり、のとき、混合は吸熱的に起こります。
まとめ
過剰熱学力量は混合液体について各状態関数の理想値から離れている度合いを表す指標です。
例えば、エントロピーの過剰量は次のように表されます。
正則溶液とは、過剰エントロピーが0()で、過剰エンタルピーは0でない()溶液のことを指します。
大学院試験対策におすすめの参考書
最後に大学院試験対策におすすめの参考書を紹介します。
本サイトでは基本的な問題の解説をしていますが、著作権などの都合上、問題設定や数値はオリジナルの問題になっています。
おすすめの無機化学参考書
無機化学演習 大学院入試問題を中心に
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おすすめの物理化学参考書
アトキンス物理化学
アトキンス物理化学(上)
アトキンス物理化学(下)
アトキンス物理化学は、物理化学の参考書としてはよく用いられています。
マッカーリサイモンの物理化学の参考書とよく比較されますが、私個人としては、こちらの方が図表がきれいに並べられているため見やすいと感じています。
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そのときには、下の参考書を使うとよいでしょう。
物理化学演習 1―大学院入試問題を中心に (化学演習シリーズ)
アトキンス物理化学の演習問題の答えがないときには、こちらの物理化学演習の参考書を買うのも一つの手でしょう。
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