化学系の大学院試験直前の対策として、大学院の試験に出題されうる例題を掲載しています。
どの例題も典型的な問題であり、さらに出題されている数値をごく簡単な値に調整しているため、計算に時間をかける必要は不要です。
その分、厳密な値ではないのに注意してください。
今回は物理化学、化学熱力学の中から加圧による液体の蒸気圧の上昇というテーマを扱っていきます。
液体を加圧することによる蒸気圧の上昇
液体が加圧されたとき、飽和蒸気圧は上昇します。
加圧による蒸気圧の変化の結論
結論から言うとで加圧された後の蒸気圧は、
と表せます。
これは、
とも書けるので、
加圧によって液体の蒸気圧が倍になると考えてもよいでしょう。
加圧による蒸気圧の変化の理由
この理由について考えてみましょう。
まず、蒸気圧とは気体と液体が平衡状態にあるときの気体の圧力なので、
気液平衡の条件の利用
平衡状態という条件から化学ポテンシャルが等しくなる式を立てます。
ここで加圧したときにも平衡が崩れないようにすると仮定すると、
気体と液体、両方の相で起きる化学ポテンシャルが等しくなる必要があります。
つまり次の式が成り立ちます。
熱力学基本式の利用
化学ポテンシャルは、熱力学の基本式より、であるので、等温では
となり、化学ポテンシャルの圧力変化に関する勾配は体積と等しくなります。
液体の場合には、体積は一定とみなしてよく、気体の場合には体積変化があります。
そこで、液体の場合の体積をとします。
また、気体の体積をとすると、完全気体ではなので、
つまり、今までの内容をまとめると次のように式変形ができます。
積分範囲の決定
この式を積分したいのですが、積分の範囲が問題になります。液相が感じる圧力と気相が感じる圧力はそれぞれ違うので、それぞれについて圧力の変化を考えます。
まず、気相の場合、圧力は蒸気圧と等しくなります。
よって、初めの蒸気圧を,加圧後の圧力をとすると、の範囲で積分をすればよいです。
次に、液相の場合、圧力は蒸気圧に加えて加圧されたときの圧力を加えなければいけません。
つまり、となります。
この積分を解くと
ここで、蒸気圧の変化がΔPよりも小さいと仮定すると、
であるので、
最後に大学院試験対策におすすめの参考書を紹介します。
本サイトでは基本的な問題の解説をしていますが、著作権などの都合上、問題設定や数値はオリジナルの問題になっています。
実際に大学院試験に出題された問題を見たいという方はこれらの参考書を使って対策をすることをおすすめします。
おすすめの無機化学参考書
無機化学演習 大学院入試問題を中心に
無機化学演習 大学院入試問題を中心に
こちらの参考書は、原子構造、分子構造、固体構造といった物質の構造や酸化還元や酸塩基などのベーシックな反応に関する問題を取り扱っています。
例題には出題もととなる大学院の名前も書いてあるため、自分の受験する大学院の難易度と比較しながら問題を解くことができます。
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おすすめの物理化学参考書
アトキンス物理化学
アトキンス物理化学(上)
アトキンス物理化学(下)
アトキンス物理化学は、物理化学の参考書としてはよく用いられています。
マッカーリサイモンの物理化学の参考書とよく比較されますが、私個人としては、こちらの方が図表がきれいに並べられているため見やすいと感じています。
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ただし、アトキンス物理化学 第10版の演習問題の解答は別冊になっており、とても高価です。
アトキンス物理化学第10版の解答はこちら
さらに、解答はすべて英語になっているので、演習問題で解答が必要な人にとっては少々演習がやりにくく感じるかもしれません。
そのときには、下の参考書を使うとよいでしょう。
物理化学演習 1―大学院入試問題を中心に (化学演習シリーズ)
アトキンス物理化学の演習問題の答えがないときには、こちらの物理化学演習の参考書を買うのも一つの手でしょう。
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