二種類の原子モデル
1900年代のはじめ、水素原子のモデルは2種類の考えがあった。
トムソンの原子モデル
電子が原子の中央にあり、その周りに正電荷が広く分布しているモデル。
長岡の原子モデル
原子の中心には原子核があり、その周りを電子が回っているというモデル。
決着:ラザフォードによる実験
ラザフォードは、放射性物質から放射されるアルファ粒子(He2+)を薄い金属箔に当てて、その散乱の仕方で、モデルを推測した。
すると中央を通るアルファ粒子は大きな散乱角度で跳ね返っていくことがわかった。すなわち長岡半太郎のモデルが事実と合っていることがわかった。
長岡モデルの矛盾:電磁気学
長岡半太郎のモデルでは、原子核の周りを電子がぐるぐると回っている。
しかし、電磁気学では、原子核を回る電子は電磁波を放射することになっている(加速度運動する電子からは電磁波がでることが知られている。)
電磁波を放出するということは当然その分のエネルギーを失うということであり、結果的に電子が回る半径が小さくなり、そのうち原子核とぶつかってしまうというわけだ。
つまり、この長岡モデルも完全には正しいというわけではないということがわかった。
ボーアによる解決
ボーアはいくつかの仮定をすることで、長岡モデルの矛盾と、次に述べる水素原子スペクトルの非連続性を説明することに成功した。
水素原子の線スペクトル
電極付きの真空のガラス管のなかに水素ガスを入れ、そこに電圧を加えると水素分子が水素原子に分かれ放電が起こる。
この時の光のスペクトルを考える。
プリズムを通して光をスクリーンで見ると光の波長によって屈折率が違うため、波長の長さ順にわかれた場所に投影することができる。このとき、波長とその強度の関係を表したものをスペクトルといいます。太陽光は、全ての波長の光を含んでいるため、ほぼ連続的に光がわかれ、この場合は特に連続スペクトルという。
このとき、水素原子の出す光のスペクトルは、非連続的な形をしており、線スペクトルと呼ばれる。
このとき観測された波長の規則性を調べると、次のような関係があった。
$$\frac {1}{\lambda }=R\left( \frac {1}{n^{2}_{2}}-\frac {1}{n^{2}_{1}}\right)$$
Rはリュートベリ定数(=1.10×107m-1)である。
ボーアの仮説
ボーアは二つの仮定をすることで、水素原子の線スペクトルと長岡モデルの矛盾の説明をした。
ボーアの量子条件
電子の円運動は、角運動量mvrがh/2πの正の整数倍になるような運動のみが許される。
このような状態を定常状態といい、一定のエネルギーを持つ。
これを式で表すと次のようになる。
$$mvr=n\frac {h}{2{}\pi }$$
このときの自然数nを量子数といいます。この量子数によって、角運動量、半径、さらにはエネルギーもとびとびの値をとることになる。
このような状態を「量子化されている」という。
例えば、エネルギーEは、円運動の遠心力とクーロン力のつりあいから
$$\frac {e^{2}}{4\pi \varepsilon _{0}r^{2}}=\frac {mv^{2}}{r}$$
であり、E=\frac {1}{2}mv^{2}
$$E=-\frac {e^{2}}{8\pi \varepsilon_{0} {}r}$$
であり、そこにさきほどの
$$mvr=n\frac {h}{2{}\pi }$$
をrを消去する形で代入すると、
$$E=-\frac {me^{4}}{8\varepsilon ^{2}_{0}h^{2}}\frac {1}{n^{2}}$$
となる。
ボーアの振動数条件
原子がある量子数から別の量子数へと移るとき、このときのエネルギー差に応じた光を放出あるいは吸収する。
例えば、量子数n1からn2へと移ったときを考えた時のエネルギー変化ΔE=En1-En2 を考える。
この時、先ほどもとめた量子化されたエネルギーである
$$E=-\frac {me^{4}}{8\varepsilon ^{2}_{0}h^{2}}\frac {1}{n^{2}}$$
を用いて表すと、
$$ΔE=\frac {me^{4}}{8\varepsilon ^{2}_{0}h^{2}}\left( \frac {1}{n^{2}_{2}}-\frac {1}{n^{2}_{1}}\right)$$
となる。
線スペクトルの説明
一方、光子一個のエネルギーは、
$$\Delta E=h\nu$$
と表されるため
$$\nu=\frac {\Delta E}{h}=\frac {me^{4}}{8\varepsilon ^{2}_{0}h^{3}}\left( \frac {1}{n^{2}_{2}}-\frac {1}{n^{2}_{1}}\right)$$
となる。
$$\frac {1}{\lambda }=\frac {\nu }{c}$$
であるので、
$$\frac{1}{\lambda }=\frac {\Delta E}{h}=\frac {me^{4}}{8{}c\varepsilon ^{2}_{0}h^{3}}\left( \frac {1}{n^{2}_{2}}-\frac {1}{n^{2}_{1}}\right)$$
これは線スペクトルの波長を表す式と全く同じである。
つまり、リュートベリ定数Rには
R=\dfrac {me^{4}}{8c\varepsilon ^{2}_{0}h^{3}}
という関係がある。
これで、水素原子の線スペクトルは、とびとびの値をとることが説明された。